
20代 女性のご相談
小児の円形脱毛症ってどんな病気?

医師の回答
自覚症状も無く、頭にコイン大の丸い脱毛斑(はげ)が生じる疾患です。

〜ある日突然、子どもの髪に「丸いハゲ」が… そんなときは迷わず皮膚科へ」〜
自覚症状も無く、頭にコイン大の丸い脱毛斑が生じる疾患です。多発することもあり、頭全体さらには全身の毛が抜けたりもします。
かつてはストレスが原因と考えられていましたが、多くはストレスと無関係に発症します。
毛包を自分のリンパ球が攻撃してしまうことで起こっていることがわかってきました。この疾患は、約20%が小児という統計があります。
小児の円形脱毛症とは、自己免疫反応によって毛根が攻撃され、突然頭髪や体毛が円形に抜けてしまう脱毛症の総称です。痛みやかゆみを伴わずに発症するため、子ども本人が気づかず、保護者や理容師が発見するケースも多い疾患です。発症年齢は乳幼児から学童期まで幅広く、髪だけでなく眉毛やまつ毛、体毛に及ぶこともあります。
円形脱毛症にはいくつかの病型があります。たとえば、頭部に1か所だけできる単発型、複数に出現する多発型、眉毛やまつ毛を含む全身の毛が抜ける全身型などがあります。症状の範囲や進行スピードには大きな個人差があるのが特徴です。
【主な原因】
自己免疫反応により毛根が攻撃される
遺伝的素因(アトピー素因や家族歴)
感染症や風邪の後に免疫が変化して起こることがある
精神的ストレスや環境の変化が引き金になる場合もある
好発部位は頭部全体ですが、円形の脱毛斑としては後頭部や頭頂部に目立ちやすく見つかります。ときに眉毛・まつ毛・体毛にも広がることがあります。アトピー性皮膚炎やアレルギー体質を持つ子どもにやや多いとされます。
経過は、突然髪が抜け始め、数週間から数か月で拡大することがあります。掻痒や痛みはありませんが、精神的な影響は大きく、外見上の変化によるストレスや学校生活での影響が出る場合もあります。軽症では自然に治ることもありますが、放置すると範囲が広がる例もあり、早期に皮膚科で評価・治療を行うことが生活の質を守ることにつながります。
✅ 使用されるお薬・治療・ケア
① 【軽症(1~数か所、直径2~3cm以下)】
▶ 外用ステロイド(局所免疫抑制・炎症抑制)
ヒドロコルチゾン酪酸エステル ロコイド軟膏 比較的マイルドな作用、顔面・頭部に使用可能
クロベタゾン酪酸エステル キンダベート軟膏 小児にも使用されることが多い、低〜中等度の強さ
🔹 1日1~2回、数週間単位で継続し、効果判定。副作用を避けるため定期的に休薬・評価を行う。
② 【中等症〜多発・再発例】
▶ 外用カルプロニウム(血行改善)・感作療法など
カルプロニウム塩化物 フロジン外用液など 血流改善作用あり、脱毛周囲に使用
ジフェンヒドラミン・セチリジンなど 内服抗ヒスタミン薬 掻破防止(自覚症状がある場合)
局所感作療法(SADBEなど) 専門施設での実施 重症例に限り、脱毛部にアレルゲンを塗布し刺激を与える
🔹 専門医による判断のもと、段階的治療を検討する。
③ 【難治性または広範囲型(汎発型)】
▶ 皮膚科専門医での全身療法を検討
ステロイド内服 小児では原則行わないが、重症例で短期間のみ検討される
局所免疫療法 脱毛部にアレルゲンで刺激→免疫の再調整を促す
紫外線療法(ナローバンドUVBなど) 局所免疫の調整・毛包刺激目的で行われる
🔹 小児では副作用・心理的負担への配慮が重要。
④ 【心理的ケア・生活指導】
脱毛によるストレスを軽減(帽子、タオル、カチューシャなど)
周囲の理解を促す(園・学校への配慮)
必ずしも「ストレスが原因」ではないことを保護者に説明
自然に再生する例も多いため、過度な不安を与えない
⑤ 【フォローアップ】
数か月単位で経過観察
再発が多いため、再燃時も焦らず対処
発毛の兆候(細い毛が生えてくる)に注意しながら治療継続
◆ 病院で何を調べるの?
視診・問診:脱毛斑の形や数、毛穴の有無、爪の変化を確認します。本人や家族の病歴、アトピーやアレルギー体質の有無も併せて聴取します。
ダーモスコピー(皮膚鏡検査):毛穴や折れ毛、再生毛の有無を拡大して観察します。円形脱毛症に特徴的な「感嘆符毛」などを確認でき、診断の精度が高まります。
毛髪牽引試験:脱毛斑の周囲の髪を軽く引っ張り、容易に抜けるかどうかを調べます。進行中かどうかの判定に役立ちます。
血液検査:自己免疫疾患との関連を調べる目的で、甲状腺機能、自己抗体、IgE値などを確認します。併存症がある場合に治療方針の参考となります。
皮膚生検:典型例では不要ですが、脱毛症の鑑別が難しいときに行われます。局所麻酔下で頭皮を一部採取し、毛包の炎症や自己免疫反応を顕微鏡で確認します。
真菌鏡検(KOH法):白癬〔はくせん/頭部白癬〕との鑑別が必要な場合に行います。頭皮の皮膚片や毛髪を顕微鏡で確認し、真菌感染の有無を調べます。
🔍 小児の円形脱毛症と間違えやすい病気(類似疾患)
頭部白癬(しらくも)⇒白いフケ・赤み/かゆみ/ジュクジュク 真菌(カビ)による感染/皮ふに赤みやフケあり/かゆみ強い/検査で診断可能
抜毛症(トリコチロマニア)
⇒ 自分で髪を抜いてしまうクセ 不規則な形で短く折れている毛/ストレス背景が多い/子どものクセや不安に注意
無毛症・乏毛症(先天性)
⇒生まれつき毛が少ない・生えにくい 広範囲/他の部位の毛も少ない/家族歴や遺伝性疾患の可能性
薬剤性脱毛
⇒抗がん剤などで起きる脱毛 薬歴がある/全身の毛が抜けることも
鉄欠乏性貧血
⇒慢性的な脱毛・爪の変化など びまん性に脱毛/血液検査で診断可能
予防のポイント 頭皮を清潔に保ち、強い摩擦や刺激を避ける
抜け毛をむやみに引っ張らない
睡眠を十分にとり、生活リズムを整える
バランスのよい食事で体調を維持する
ストレスをためず、安心できる環境を整える
帽子やウィッグを活用し、学校生活での心理的負担を軽減する
気になる脱毛を早めに皮膚科で相談する
<参考資料>
新潟薬科大学卒業。筑波大学大学院 公衆衛生学学位プログラム修了(修士)
ウエルシア薬局にて在宅医療マネージャーとして従事し、薬剤師教育のほか、医師やケアマネジャーなど多職種との連携支援に注力。在宅医療の現場における実践的な薬学支援体制の構築をリード。2023年より株式会社アスト執行役員に就任。薬剤師業務に加え、管理業務、人材採用、営業企画、経営企画まで幅広い領域を担当し、事業の成長と組織づくりに貢献している。さらに、株式会社Genonの医療チームメンバーとして、オンライン服薬指導の提供とその品質改善にも取り組むとともに、医療・薬学領域のコンテンツ制作において専門的なアドバイスを行っている。経済産業省主催「始動 Next Innovator 2022」採択、Knot Program 2022 最優秀賞を受賞。
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