
20代 女性のご相談
乳児脂漏性皮膚炎ってどんな病気?

医師の回答
新生児に、マラセチア(でんぷう菌)という皮膚の常在菌が初めてくっつくことによって、起こる反応です。


〜生まれてすぐの赤ちゃんの「フケ・かさぶた」や「赤み」はこれかも!?」〜
乳児の脂漏性皮膚炎は、この世に誕生した新生児に、マラセチア(でんぷう菌)という皮膚の常在菌が初めてくっつくことによって、
起こる反応ではないかと推測されています。 おでこや頭部、耳の周辺、股部、わきの下など、皮脂線の多い場所にできやすいものです。
多くは生後3か月ころを過ぎると自然に治ります。炎症が強い場合は短期的にステロイド外用剤を用います。
(長引く場合は、もしかするとアトピー性皮膚炎かもしれません。)
乳児脂漏性皮膚炎(にゅうじしろうせいひふえん)とは、生後間もない赤ちゃんに見られる皮膚炎の一種で、頭皮や顔を中心にフケやかさぶた、赤みを伴うのが特徴です。かゆみや痛みは軽度であることが多く、時間とともに自然に軽快する例も少なくありません。主に生後2週間〜3か月頃に出やすく、親御さんが驚かれることはあっても、多くは軽症で経過します。
たとえば、頭皮に厚い黄色〜茶色のかさぶたが付着する型や、眉・額・まぶたの赤み、耳の裏や首のただれなどが代表例です。脂漏性皮膚炎という名前のとおり、皮脂の多い部分に好発します。
【主な原因】
新生児期のホルモン影響による皮脂分泌の増加
皮脂を栄養源とする常在菌(マラセチア)の増殖
汗や汚れによる刺激が加わること
清潔保持が不十分な場合の二次的な悪化
好発部位は頭皮、眉、額、まぶた、鼻周囲、耳のうしろ、首回りです。乳幼児期の赤ちゃんに多く、特に皮脂分泌の盛んな時期に目立ちます。アレルギー体質とは直接関係ありません。
経過としては、初期にはフケや薄い赤みとして始まり、悪化するとかさぶたが厚くなったり、じゅくじゅくした湿疹に広がることもあります。掻き壊しや感染(とびひ)を併発する場合もあるため注意が必要です。乾燥や汗、摩擦が悪化因子となることが多く、早期に受診してケアや外用薬を行うことで、赤ちゃんの皮膚を守り、親御さんの安心にもつながります。
✅ 使用されるお薬・ケア
① 【軽症(頭皮のフケ・かさぶた程度)】
▶ ケア中心:洗浄・保湿
ベビー用シャンプー アラウベビー、ピジョン泡シャンプー等 低刺激の洗浄剤で毎日やさしく洗髪
ワセリン系保湿 白色ワセリン、プロペト 洗髪後の乾燥を防ぐ目的で使用。刺激が少ない
🔹 油分の多い皮脂をやさしく洗浄し、清潔を保つことが第一選択。
② 【中等症(炎症が目立つ、赤みやかさぶたが広範囲)】
▶ 外用ステロイド(短期間使用)
ヒドロコルチゾン酪酸エステル ロコイド軟膏 顔面にも使用可能な低強度ステロイド
クロベタゾン酪酸エステル キンダベート軟膏 目の周りを避けて使用(赤み・かゆみに)
🔹 数日使用で改善傾向があれば中止し、保湿へ移行。
③ 【脂漏が強い・分厚いかさぶたがある場合】
▶ 前処置としてオイル軟化 or 角質溶解剤
ベビーオイル 和光堂、ジョンソンベビーオイルなど 洗髪前に塗布→ふやかして除去(こすらない)
尿素製剤(注意) ケラチナミンなど(成人向け) 乳児には基本使用しない(刺激強めのため)
🔹 無理に剥がさず、自然に浮き上がるまで待つのが基本。
④ 【かゆみ・不快感が強い場合】
▶ 内服抗ヒスタミン薬(まれ/医師判断で)
クロルフェニラミン ポララミンなど 眠気あり。かゆみが強い場合に一時的使用。
🔹 多くは使用せずに済むが、睡眠障害や掻破が強い場合に限定的に使用。
⑤ 【予防・再発防止のケア】
週数回〜毎日のやさしい洗髪(ごしごしこすらない)
洗浄後の保湿(乾燥防止)
発赤・かゆみがあれば早めに医師相談
◆ 病院で何を調べるの?
- 視診・問診:皮膚の見た目や出現時期、かゆみの有無を確認します。赤みやかさぶたの性状から他の湿疹やアトピーとの鑑別に役立ちます。非侵襲的でその場で判断できる基本の検査です。
- 真菌鏡検(KOHテスト):マラセチアなどの真菌が関与しているか確認するために用いられます。かさぶたや皮膚の一部を採取し顕微鏡で観察します。結果はその日のうちに分かります。
- 細菌培養検査:とびひなどの二次感染が疑われる場合に実施されます。滲出液や皮膚片を培養し、数日後に原因菌と有効な抗菌薬を特定します。
- 血液検査(IgE・炎症マーカー):湿疹が長引く、アトピー性皮膚炎との鑑別が必要な場合に行われることがあります。炎症の強さやアレルギー反応の有無を補助的に確認します。
- 皮膚生検:極めてまれですが、診断が困難な場合に実施されることがあります。局所麻酔で皮膚の一部を採取し、病理組織を確認します。瘢痕が残る可能性があるため、必要最小限にとどめられます。
🔍 乳児脂漏性皮膚炎と間違えやすい病気(類似疾患)
アトピー性皮膚炎(乳児型)⇒頬の強い赤み・じゅくじゅく・かゆみ 左右対称/乾燥が強い/くり返す傾向
接触皮膚炎(かぶれ)
⇒石けん・よだれ・布などの刺激 特定の部位に限定/おむつまわりや口周りが多い
カンジダ性皮膚炎
⇒赤くてジュクジュク/しわの奥まで赤い ふちがギザギザ/白っぽいかさぶた/抗真菌薬が必要
とびひ(伝染性膿痂疹)
⇒かき壊し→水ぶくれ・かさぶた 急に広がる/黄色いかさぶた/かゆみが強い
乳児血管腫(いちご状血管腫)
⇒赤く盛り上がるいちごのようなできもの はっきりとした隆起/徐々に大きくなるが自然に消える傾向
予防のポイント 毎日ぬるま湯と低刺激のベビー石けんで頭や顔をやさしく洗う
入浴前にオイルでかさぶたをやわらかくしてから洗う
洗浄後はしっかりすすぎ、清潔なタオルで押さえるように拭く
適度に保湿し、乾燥を防ぐ
衣類や寝具は清潔で通気性の良い素材を選ぶ
汗をかいたら早めに着替えやシャワーで清潔を保つ
かさぶたを無理にはがさず、自然に取れるのを待つ
赤みや湿疹が広がる場合は早めに皮膚科を受診する
<参考資料>
新潟薬科大学卒業。筑波大学大学院 公衆衛生学学位プログラム修了(修士)
ウエルシア薬局にて在宅医療マネージャーとして従事し、薬剤師教育のほか、医師やケアマネジャーなど多職種との連携支援に注力。在宅医療の現場における実践的な薬学支援体制の構築をリード。2023年より株式会社アスト執行役員に就任。薬剤師業務に加え、管理業務、人材採用、営業企画、経営企画まで幅広い領域を担当し、事業の成長と組織づくりに貢献している。さらに、株式会社Genonの医療チームメンバーとして、オンライン服薬指導の提供とその品質改善にも取り組むとともに、医療・薬学領域のコンテンツ制作において専門的なアドバイスを行っている。経済産業省主催「始動 Next Innovator 2022」採択、Knot Program 2022 最優秀賞を受賞。
ヒフメドの編集チームは、皮膚疾患で悩む方に向けて専門的かつ最新の情報を分かりやすく届けることを目指しています。
アトピーや皮膚感染症といった疾患の基礎知識から、治療・生活管理の実用的なコツ、最新の治療事情まで幅広くカバー。読者が記事を読むことで「すぐに役立てられる」情報提供を心がけています。