
40代 女性のご相談
多汗症ってどんな病気?

医師の回答
多汗症は過剰に汗をかく病気です。全身に汗をかく全身性多汗症と、手のひら、足の裏(あわせて掌蹠と言います)、腋などからだの一部に汗をかく局所性多汗症があります。


〜「汗かきすぎかも?」それ、病気として治療できる汗かも!?〜 多汗症(たかんしょう)とは、気温や運動に関係なく、手のひら・わき・顔などに必要以上の汗をかいてしまう病気です。
日常生活に支障が出ることもあり、原因には体質や自律神経の乱れ、ストレスなどが関係しています。
塗り薬・内服薬・注射・手術など治療法が複数あり、早めの対処で改善が期待できます。
多汗症(たかんしょう)は、気温や運動とは関係なく、手のひら・足の裏・わき・顔などに過剰な汗をかいてしまう病気です。
症状には、全身から大量に汗をかく「全身性多汗症」と、身体の特定部位に集中して汗をかく「局所性多汗症」があります。特に、手や足に汗をかく「掌蹠(しょうせき)多汗症」は、「手に汗握る」ような緊張・ストレスなどの情動が関与することも多く、日常生活や仕事、対人関係に大きな影響を及ぼすケースもあります。
多汗症の原因には、大きく分けて「原発性多汗症(原因が特定できない体質性のもの)」と、「続発性多汗症(何らかの病気や薬剤の影響によるもの)」があります。続発性の場合は、感染症、内分泌代謝異常(例:甲状腺機能亢進症、糖尿病など)、神経疾患などが背景にあることもあり、全身の診察や血液検査が必要になることもあります。
多汗症の治療には、塩化アルミニウムなどの外用薬、抗コリン薬などの内服薬、ボトックス注射、イオントフォレーシス(電流療法)、手術(交感神経遮断術)など複数の選択肢があり、症状の重さや部位によって最適な治療法を選択します。最近では保険適用の内服薬も登場しており、以前よりも治療の幅が広がっています。
「手汗で紙が濡れる」「顔汗でメイクが崩れる」「靴の中がいつも蒸れる」など、日常に支障を感じたら、それは多汗症のサインかもしれません。適切な診断と治療によって改善が期待できますので、気になる方は早めに皮膚科にご相談ください。
✅ 主な治療薬(保険適用あり)
◆ ①【外用薬(わき・手足・顔など)】
グリコピロニウム臭化物外用液 ラピフォートワイプ®(わき専用) 2022年承認。保険適用あり。1日1回のふき取りタイプ
エクロックゲル®(ソフピロニウム臭化物) わき用。日本初の保険適用の外用抗コリン薬(1日1回)
塩化アルミニウム液 オドレミン®、ドライオニック® など(市販) 制汗効果あり。刺激感に注意。保険適用外だが多汗症治療では定番
抗コリン薬外用(自費) 例:アポスティーク®(手足) 顔・手のひらなどに応用されることも(医療機関により異なる)
◆ ②【内服薬】
プロバンサイン®(プロパンテリン) 抗コリン薬:発汗を抑える作用あり(全身性に効く)
ロフラゼプ酸エチル メイラックス®など(抗不安薬) 精神的な緊張で発汗するタイプに有効なことも
📌 抗コリン薬は口の渇き、便秘、目のかすみなどの副作用に注意。
◆ ③【注射療法(ボツリヌス療法)】
ボトックス注射(ボツリヌス毒素A型) わき汗に対して保険適用あり(4〜9か月持続)。手足・顔は自費になることも
効果 交感神経終末に働いて、発汗を一時的にブロック
◆ ④【イオントフォレーシス(手足の多汗症に)】
微弱電流を水に流しながら手足を浸す治療 保険適用あり。週2〜3回から開始し、効果が出たら間隔を空けて維持
機器例 ドライオニック® など(家庭用もあり)
◆ ⑤【手術療法(重症例)】
胸腔鏡下交感神経遮断術(ETS) 交感神経を切断して手のひらの発汗を抑える(根治的治療)
デメリット 代償性発汗(別の部位の発汗が増える)のリスクがあるため慎重に検討
「もしかして多汗症かも…」と思ったら?
自分で判断せずに皮ふ科へ相談を!
当院では、スマホで受けられるオンライン診療も対応しています
症状の確認からお薬の処方まで、自宅から気軽にご相談ください
🔬 病院で何を調べるの?
1. 問診(症状や生活の聞き取り)
いつから汗が気になるか?
どの部位(手・足・脇・顔など)に出やすいか?
季節や状況に関係なく汗が出るか?
家族にも同じ症状があるか?
ほかの病気(甲状腺の病気、糖尿病など)や服薬歴はあるか?
2. 視診(実際の汗の状態の確認)
手のひらや足裏、脇などの汗の量を目視で確認。
必要に応じて ヨードデンプン試験(Minorテスト)
→ ヨードとデンプンを皮膚に塗り、汗をかく部分が黒く変色することで汗の範囲や程度を確認します。
3. 必要に応じた血液検査
甲状腺機能(バセドウ病など)
糖尿病や内分泌代謝異常
感染症や神経疾患が疑われる場合のスクリーニング
👉 続発性多汗症(他の病気が原因の汗)を見分けるために行われます。
4. 診断基準の確認
手のひら・足の裏・脇などの特定部位に左右対称に過剰な汗が出るか
6か月以上症状が続いているか
日常生活に支障があるか
(例:ペンが滑る、スマホが反応しにくい、握手ができない など)
🔍 多汗症と間違えやすい疾患(類似疾患)
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)⇒動悸・体重減少・手のふるえ+全身の発汗 血液検査で診断/疲れやすい・目が出るなどの特徴も
薬剤性多汗
⇒抗うつ薬・血圧の薬などによる副作用 服薬歴の確認が重要/薬の中止で改善することあり
自律神経失調症
⇒不安・めまい・のぼせ・手汗などが不規則に出る 精神的なストレスと連動/体温調整が苦手になることも
糖尿病性自律神経障害
⇒足や手の汗が極端に増減する/しびれや感覚異常も 糖尿病の既往あり/足裏が乾燥することも多い
感染症(結核・敗血症など)
⇒夜間の寝汗・全身倦怠感・発熱など 慢性的な発熱+体重減少あり/血液検査・胸部レントゲンなどで確認
汗疱(かんぽう)・異汗性湿疹
⇒手足に水ぶくれ/かゆみ・汗との関係あり 汗で悪化するが、皮膚の炎症を伴う/湿疹との違いに注意
社会不安障害(あがり症)
⇒人前での緊張で汗が出る/特定場面で悪化 日常生活への強い影響あり/精神科・心療内科の評価が有効
予防のポイント
多汗症は生活習慣だけでは十分にコントロールできないこともあります。
何かあれば病院で相談しましょう!
<参考資料>
新潟薬科大学卒業。筑波大学大学院 公衆衛生学学位プログラム修了(修士)
ウエルシア薬局にて在宅医療マネージャーとして従事し、薬剤師教育のほか、医師やケアマネジャーなど多職種との連携支援に注力。在宅医療の現場における実践的な薬学支援体制の構築をリード。2023年より株式会社アスト執行役員に就任。薬剤師業務に加え、管理業務、人材採用、営業企画、経営企画まで幅広い領域を担当し、事業の成長と組織づくりに貢献している。さらに、株式会社Genonの医療チームメンバーとして、オンライン服薬指導の提供とその品質改善にも取り組むとともに、医療・薬学領域のコンテンツ制作において専門的なアドバイスを行っている。経済産業省主催「始動 Next Innovator 2022」採択、Knot Program 2022 最優秀賞を受賞。
ヒフメドの編集チームは、皮膚疾患で悩む方に向けて専門的かつ最新の情報を分かりやすく届けることを目指しています。
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