
20代 女性のご相談
ファブリー病ってどんな病気?

医師の回答
ファブリー病は、体の中で「不要な物質(脂質)」を分解する酵素が生まれつき少ない・働かないことによって、さまざまな臓器に異常が出る、遺伝性の代謝性疾患です。
〜「熱い」「痛い」「だるい」…それ、体の中の“ゴミ処理”がうまくいかないことが原因かも?〜
ファブリー病とは、体の中で不要な物質を分解する酵素(こうそ)がうまく働かず、老廃物が細胞にたまってしまう、遺伝性の代謝異常症です。
そのため、全身の細胞や血管、神経が少しずつ傷つき、さまざまな症状が現れます。
ファブリー病(Fabry病)とは、体内の不要な物質を分解する酵素が十分に働かず、老廃物が細胞や血管に蓄積してさまざまな症状を引き起こす遺伝性の代謝異常症です。X染色体に存在するGLA遺伝子の変化によって「α-ガラクトシダーゼA」という酵素が不足または機能低下し、その結果「GL-3」という物質が蓄積して臓器障害を生じます。男女ともに発症しますが、男性で重く出やすく、女性では軽度にとどまる場合もあります。進行すると腎不全、心不全、脳梗塞など命に関わる合併症を伴うことがあり、指定難病・ライソゾーム病の一つに分類されます。
病型としては、古典型と呼ばれる小児期から症状が目立つタイプと、心臓や腎臓を中心に大人になってから症状が進行する遅発型があります。皮膚のアンジオケラトーマ、四肢の焼けるような痛み、汗のかきにくさ、心肥大や不整脈、若年での脳梗塞、腎機能障害など多様な症状が代表的です。
主な原因
GLA遺伝子の変化により酵素活性が低下
α-ガラクトシダーゼAの不足または機能不全
GL-3の体内蓄積による臓器障害
X染色体連鎖性遺伝の影響
好発部位としては、腎臓・心臓・脳・末梢神経・皮膚・眼など全身に及びます。発症しやすいのは男性で、幼少期から四肢の疼痛や発汗異常が出ることが多く、女性でも不整脈や腎障害など軽度の症状が現れる場合があります。
進行は、幼少期には手足の痛みや消化器症状など軽度の不調から始まり、思春期以降に心臓や腎臓への負担が強まり、慢性的な臓器障害に至ります。放置すると慢性腎不全、心肥大、不整脈、脳梗塞など重篤な経過をたどることがあります。乾燥や発熱、運動、暑さなどが悪化因子となることも知られています。早期に診断・治療を開始することで合併症のリスクを下げ、生活の質を保つことが可能です。
✅ 治療に使われる薬・治療法
◆ ① 酵素補充療法(ERT:Enzyme Replacement Therapy)
製品名 成分 投与方法
リプレガル® アガルシダーゼα 点滴静注(2週間に1回)
ファブラザイム® アガルシダーゼβ 点滴静注(2週間に1回)
欠損した酵素を補う根本治療
特に腎・心・神経症状の進行抑制に効果
治療は早期開始が鍵
◆ ② シャペロン療法(適応変異のみ)
製品名 成分 特徴
ガラフォルド® ミガーラスタット 特定の遺伝子変異に適応(可逆的変異のみ)/内服薬(月に数回)/軽症型向け
◆ ③ 対症療法(臓器障害ごとに)
臓器 使用薬・対応
神経痛 プレガバリン(リリカ®)、デュロキセチン、NSAIDsなど
腎障害 ARB/ACE阻害薬(レニベース®、ミカルディス® など)
心不全 β遮断薬、利尿薬、抗不整脈薬など
脳血管予防 抗血小板薬(バイアスピリン®など)
無汗症・熱中症予防 こまめな冷却・水分補給・遮熱衣服など
🔬 病院で何を調べるの?
視診・問診:皮膚の赤紫色の小斑点(アンジオケラトーマ)や角膜の混濁、四肢の疼痛歴を確認します。症状の出方や家族歴の有無を把握することが診断の第一歩です。
血液検査(酵素活性測定):男性では血液中のα-ガラクトシダーゼA活性を測定します。不足や低下があればファブリー病の可能性が高くなります。結果は数日で判定されます。
遺伝子検査:GLA遺伝子の変化を解析し、確定診断を行います。男女ともに実施可能で、家族内での発症リスク評価にも役立ちます。結果が出るまでに数週間かかることがあります。
尿検査・腎機能検査:尿中の蛋白や腎機能指標(クレアチニン、eGFR)を測定し、腎障害の有無を確認します。早期からの変化をとらえることが可能です。
心臓・脳評価:心エコーや心電図で心肥大や不整脈を確認し、MRIで脳梗塞や血管病変を調べます。合併症の進行を把握し、適切な治療方針を決めるのに不可欠です。
皮膚生検:必要に応じて皮膚組織を採取し、ライソゾームに沈着した物質を確認します。瘢痕リスクがあるため慎重に行われます。
🔬 間違えやすい他の病気(鑑別)
アレルギー性紫斑病(IgA血管炎)
⇒四肢に紫斑・腹痛・腎症状 急性経過/痛みはあるが灼熱痛ではない/酵素異常なし
被角血管腫(アンギオケラトーマ)
⇒赤紫色の小さな盛り上がり(皮膚腫瘍) 単発/体にたまる病気ではない/進行性の内臓障害なし
多発性神経炎(Charcot-Marie-Tooth病など)
⇒四肢のしびれ・筋力低下 痛みのタイプや皮膚症状が異なる/家族歴がヒント
他のライソゾーム病(ゴーシェ病・ポンぺ病など)
⇒酵素の欠損による臓器障害 酵素検査で区別/皮膚症状がないタイプも多い
熱中症・自律神経失調症
⇒汗が出にくい・体温調節ができない 一時的で進行性ではない/アンギオケラトーマは見られない
予防のポイント 日常的に十分な保湿を行う 暑さや運動で無理をせず、休憩と水分補給をこまめに行う 発熱や感染時には早めに受診する 心臓や腎臓の定期的な検査を継続する 強い運動や長時間の入浴を避ける 掻破を防ぐため薬で症状をコントロールする 睡眠とバランスのとれた食事を心がける 家族内発症が疑われる場合は遺伝カウンセリングを受ける
<参考資料>
新潟薬科大学卒業。筑波大学大学院 公衆衛生学学位プログラム修了(修士)
ウエルシア薬局にて在宅医療マネージャーとして従事し、薬剤師教育のほか、医師やケアマネジャーなど多職種との連携支援に注力。在宅医療の現場における実践的な薬学支援体制の構築をリード。2023年より株式会社アスト執行役員に就任。薬剤師業務に加え、管理業務、人材採用、営業企画、経営企画まで幅広い領域を担当し、事業の成長と組織づくりに貢献している。さらに、株式会社Genonの医療チームメンバーとして、オンライン服薬指導の提供とその品質改善にも取り組むとともに、医療・薬学領域のコンテンツ制作において専門的なアドバイスを行っている。経済産業省主催「始動 Next Innovator 2022」採択、Knot Program 2022 最優秀賞を受賞。
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