
50代 女性のご相談
乳房外パジェット病ってどんな病気?

医師の回答
乳房外パジェット病は、皮膚がんの一種で、外陰部、肛門周囲、わきの下、へそ周りなどアポクリン腺のあるところに発症する病気です。
〜かゆみや赤みが続く皮膚炎?実はがんのサインかも!?〜 乳房外パジェット病は、皮膚がんの一種で、外陰部、肛門周囲、わきの下、へそ周りなどアポクリン腺のあるところに
発症する病気です。 汗を分泌するアポクリン腺の細胞ががん化することが原因と考えられています。
発症すると、赤色・褐色・白色などのしみや湿疹のような病変があらわれます。通常、自覚症状はありません。
進行すると、しみや湿疹のような病変にかさぶたやただれなどが生じてしこりを形成し、リンパ節や内臓に転移します。
高齢者に多くみられます。
乳房外パジェット病とは、皮膚の表面に発生する悪性腫瘍の一種で、特に外陰部や肛門周囲、腋窩〔えきか:わきの下〕などの汗腺が多い部位にみられる疾患です。湿疹や皮膚炎と似た症状を呈するため、かぶれや単なるかゆみと誤認されやすく、診断が遅れることがあります。早期に発見し治療することで局所の切除で完治が見込める場合もあるため、長引く皮膚症状では注意が必要です。
代表的には、外陰部や陰嚢、肛門、腋などに境界不明瞭な赤みやびらん(ただれ)が出現し、かさつきや湿潤、かゆみ、軽度の痛みを伴うことがあります。湿疹、接触性皮膚炎、乾癬〔かんせん〕などと見分けにくいため、繰り返し市販薬を使用しても改善しない皮疹は鑑別が重要です。
【主な原因】
アポクリン汗腺や皮脂腺の細胞ががん化
体内の泌尿器・消化器などの悪性腫瘍に関連して発症する場合
長期間続く皮膚炎により発見が遅れること
好発部位は外陰部、肛門周囲、腋窩で、50〜70代の男女に多くみられます。部位の特性から受診が遅れる傾向があり、見逃されやすいのも特徴です。
病変は初期には赤みやかゆみが主体ですが、時間の経過とともに浸潤やただれが強くなり、びらん面や潰瘍を形成することもあります。掻破や摩擦により悪化しやすく、進行すると慢性化して病変が拡大します。発汗や下着の刺激、恥ずかしさによる受診遅れがリスクとなり、発見が遅れるほど治療範囲が広がる傾向にあります。早期に皮膚生検を行い確定診断に至れば、治療は比較的限定的で済み、生活の質を保ちながら管理することが可能です。

✅ 治療法
原則として「外科的切除が第一選択」ですが、病状や年齢により他の治療も考慮されます。
◆ ①【手術療法(標準治療)】
広範囲切除術 腫瘍周囲を十分なマージンで切除/病理で断端陰性を確認
再建術 広範囲切除により皮膚移植や皮弁形成術が必要なことも多い
センチネルリンパ節生検 浸潤が疑われる場合、転移検索のために行われることがある
◆ ②【放射線治療】
高齢や合併症などで手術が困難な例に緩和的に用いられる
症状の改善や局所コントロール目的
根治は難しいことが多い
◆ ③【薬物療法(外用・内服)】
外用化学療法(5-FU軟膏) 表皮内にとどまる病変に対して試みられることがある(限定的)
イミキモド(ベセルナ®) 一部の表皮内型に使用例あり(未承認適応)/刺激が強く継続困難な場合も
抗がん剤(内服・点滴) 浸潤・転移例で使用される(シスプラチン、タキサン系、抗HER2薬など)
分子標的薬 HER2陽性例でトラスツズマブ(ハーセプチン®)などを併用することもある(進行例)
◆ 病院で何を調べるの?
- 視診・問診:皮疹の性状、持続期間、かゆみや滲出の有無を確認。湿疹や接触皮膚炎と鑑別する第一歩であり、長引く症状の把握に役立ちます。
- ダーモスコピー:皮膚鏡で拡大観察し、血管や色素のパターンを評価。肉眼では見逃される微細所見を確認できます。非侵襲的で外来で実施可能です。
- 皮膚生検(組織診):局所麻酔下で皮膚の一部を採取し、病理組織を顕微鏡で観察。パジェット細胞の存在を確認できる唯一の確定診断法です。結果は数日〜1週間程度で判明し、小さな瘢痕を残すことがあります。
- 血液検査:腫瘍マーカーや炎症反応を確認。全身の悪性腫瘍の存在や合併症を把握する目的で行われます。
- 画像検査(CT・MRI・内視鏡など):病変の広がりやリンパ節転移、泌尿器・消化器腫瘍の併存を確認。術前評価として重要で、治療方針を決める根拠となります。
- 細菌培養:びらん部から滲出液を採取し、二次感染の有無を確認。症状の悪化因子を把握するうえで補助的に行われます。
🔍 乳房外パジェット病と間違えやすい!類似疾患(鑑別)
湿疹(外陰湿疹など)⇒赤み・かゆみ・皮むけがある 左右対称/ステロイドで改善する/慢性化しにくい
カンジダ症(カンジダ性間擦疹)
⇒かゆみ強く、白いカス/皮膚がふやける 抗真菌薬で改善/菌検査で診断可
白斑(外陰白斑など)
⇒白っぽい肌/乾燥してひび割れる かゆみあり/色が白くなる/がん化のことも
乾癬(かんせん)
⇒赤く厚い斑+銀白色のかさぶた 肘や膝にもあり/左右対称/全身に出る傾向
基底細胞癌・有棘細胞癌
⇒赤いしこり/出血・かさぶたが取れない 盛り上がりや硬さあり/進行性
Bowen病(表皮内癌)
⇒皮膚表面に赤くてうろこ状の病変 表皮内にとどまる初期のがん/似ているが発生部位が違うことも
予防のポイント
長引く湿疹や赤みは早めに皮膚科で相談する
市販薬やステロイドで改善しない場合は自己判断で放置しない
陰部や肛門周囲のかゆみやただれを恥ずかしがらず受診する
掻き壊しや摩擦を避け、通気性のよい下着を選ぶ
日常的に皮膚を清潔に保ち、低刺激の洗浄料を用いる
睡眠不足やストレスを減らし、皮膚の抵抗力を保つ
家族や介護者が高齢者の皮膚異常に気づいたら受診を勧める
再発や他臓器のがん検診を定期的に受ける
<参考資料>
新潟薬科大学卒業。筑波大学大学院 公衆衛生学学位プログラム修了(修士)
ウエルシア薬局にて在宅医療マネージャーとして従事し、薬剤師教育のほか、医師やケアマネジャーなど多職種との連携支援に注力。在宅医療の現場における実践的な薬学支援体制の構築をリード。2023年より株式会社アスト執行役員に就任。薬剤師業務に加え、管理業務、人材採用、営業企画、経営企画まで幅広い領域を担当し、事業の成長と組織づくりに貢献している。さらに、株式会社Genonの医療チームメンバーとして、オンライン服薬指導の提供とその品質改善にも取り組むとともに、医療・薬学領域のコンテンツ制作において専門的なアドバイスを行っている。経済産業省主催「始動 Next Innovator 2022」採択、Knot Program 2022 最優秀賞を受賞。
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