
20代 女性のご相談
ネザートン症候群ってどんな病気?

医師の回答
ネザートン症候群は、生まれつき皮ふのバリア機能が弱く、皮ふが赤くむけやすい・乾燥しやすい・アレルギー症状が出やすいという特徴を持つ、まれな遺伝性の病気です。
〜肌がとても弱い、生まれつきの皮膚と免疫の病気です〜
ネザートン症候群とは、生まれつき皮ふのバリアが弱く、皮ふが赤くむけやすい難病(指定難病)です。
また、アレルギーが出やすく、髪の毛も細くてもろいという特徴があります。
ネザートン症候群とは、生まれつき皮膚のバリア機能が弱いために、全身の皮膚が赤くただれやすく、乾燥やかゆみを繰り返す指定難病です。乳児期早期から症状が出現しやすく、外見上はアトピー性皮膚炎に似ていますが、原因が異なるため通常の治療では改善が乏しいのが特徴です。皮膚の症状だけでなく、髪が細く切れやすい「竹節毛〔たけふしもう〕」と呼ばれる変化や、食物アレルギー、気管支喘息などの免疫異常も伴いやすく、全身に影響を及ぼします。
たとえば、乳児期に全身が赤くむける剥脱性皮膚炎型、アトピー性皮膚炎に類似した湿疹型、髪が細くもろい毛髪異常型などが代表的です。いずれも皮膚のバリア不全が基盤にあり、炎症やアレルギー症状を伴います。
主な原因
SPINK5遺伝子の変異によるバリア機能低下
水分保持能の低下による乾燥
外界の刺激やアレルゲンの侵入
免疫反応の過剰活性化
栄養不良や感染が症状を悪化させる
好発部位は全身で、新生児期から広範囲に赤みや剥がれが生じます。乳幼児に多く、両親から遺伝子を一つずつ受け取る常染色体劣性遺伝で発症します。アレルギー体質の家系で気づかれることも少なくありません。
経過は、生後すぐの全身性紅斑から始まり、成長とともに乾燥や湿疹が持続し、かゆみによる掻破で滲出や二次感染を繰り返します。慢性化すると苔癬化〔たいせんか〕と呼ばれる皮膚の厚みや硬さが目立つようになります。乾燥、汗、摩擦、感染、精神的ストレスなどが悪化因子となりやすく、適切なスキンケアと早期の専門的治療介入が生活の質の維持に重要です。
✅ 治療法と使用されるお薬
✳ ネザートン症候群に対する根治療法はありません。
✳ 皮膚バリア機能の補完と、合併症への対症療法が中心です。
◆ ① 皮膚への治療
分類 代表薬・処置 内容
保湿剤 ヒルドイド®、ワセリン、白色ワセリン スキンケアの基本/乾燥・びらんを防ぐ
外用ステロイド薬 ロコイド®、リンデロン® など 炎症部位に限定的に使用(皮膚萎縮に注意)
免疫調節薬(慎重投与) プロトピック 使用には慎重を要する(皮膚バリア障害があるため吸収↑)
抗菌外用薬 ゲーベン®など 二次感染の予防や治療に
全身抗菌薬(内服) セフェム系など 感染悪化時の短期使用
◆ ② 内服薬・全身管理
分類 代表薬 用途
抗ヒスタミン薬 アレロック®、ザイザル®、ビラノア® など かゆみやアレルギー反応の抑制
ビタミン剤・栄養補助 ビタミンA、E、亜鉛、アルブミン補充 栄養管理・皮膚再生補助
生物学的製剤(試験的) デュピルマブ(デュピクセント®)など アトピー合併例や重症例に保険外使用の報告あり(専門施設での管理)
免疫抑制薬(まれ) シクロスポリンなど 重度炎症例に使用されることも(専門的判断が必要)
◆ ③ 日常的ケア
ケア内容 説明
入浴+保湿 入浴後すぐに保湿/石鹸は低刺激で短時間使用
肌着・衣類の工夫 綿素材/縫い目が刺激にならないもの
掻破の予防 抗ヒスタミン薬+爪を短く切るなど
感染予防 二次感染に注意し、びらん部は清潔に保つ
定期栄養評価 低栄養・鉄欠乏・亜鉛欠乏のリスクが高い
定期的な皮膚科・小児科フォロー 成長に伴う管理の見直しが必要
🔬 病院で何を調べるの?
視診・問診:皮膚の赤み、剥脱、湿疹の分布を観察し、経過や家族歴を聴取します。アトピーとの違いや遺伝性疾患を疑うきっかけになります。
毛髪検査:顕微鏡で毛髪の形態を調べ、「竹節毛」があるか確認します。髪の異常が診断の重要な所見になります。
遺伝子検査:SPINK5遺伝子の変異を確認する検査です。血液や頬の粘膜からDNAを採取し、解析には数週間かかります。確定診断に有用です。
血液検査:IgE抗体や好酸球数、炎症マーカーを測定し、アレルギーや炎症の程度を把握します。栄養状態や臓器機能の評価にも役立ちます。
皮膚生検:局所麻酔下で皮膚を一部採取し、病理組織でバリア構造の異常や炎症細胞の浸潤を確認します。小さな瘢痕が残る可能性があります。
- 細菌培養検査:滲出やとびひが疑われる部位から検体を採取し、細菌の有無や感受性を確認します。二次感染の治療選択に役立ちます。
🔬 間違えやすい他の病気(鑑別)
アトピー性皮膚炎
⇒乳児期からのかゆみ・乾燥・赤み 皮膚バリアはある程度保たれており、毛の異常はない/家族歴の確認もカギ魚鱗癬(ぎょりんせん)
⇒皮膚が硬くカサカサで、ウロコ状にめくれる 赤みが少なく、アレルギー傾向も弱め/毛の異常なし先天性紅皮症(ハーリクイン型など)
⇒生まれたときから皮膚が真っ赤で厚く、ひび割れ 重症型は出生直後から強い症状/生存率や皮膚の厚さに大きな差があるWiskott-Aldrich症候群(免疫不全症)
⇒湿疹+出血傾向+免疫力低下 男児に多い/血小板減少あり/感染をくり返す点がヒント脂漏性皮膚炎(乳児湿疹)
⇒新生児期に頭や顔に黄色いかさぶた・赤み 数か月で改善する/全身には広がらない
予防のポイント 低刺激性の石けんやぬるま湯でやさしく洗う 入浴後すぐにワセリンなどでしっかり保湿する 綿素材など柔らかい衣服で摩擦を避ける 室内を適度な湿度に保ち乾燥を防ぐ 発汗時はこまめに着替えや洗浄を行う 掻破を防ぐために爪を短く切り、必要に応じて手袋を使う 食物アレルギーや感染症が疑われたら早めに医師に相談する 栄養や睡眠を整えて免疫の安定を心がける
<参考資料>
新潟薬科大学卒業。筑波大学大学院 公衆衛生学学位プログラム修了(修士)
ウエルシア薬局にて在宅医療マネージャーとして従事し、薬剤師教育のほか、医師やケアマネジャーなど多職種との連携支援に注力。在宅医療の現場における実践的な薬学支援体制の構築をリード。2023年より株式会社アスト執行役員に就任。薬剤師業務に加え、管理業務、人材採用、営業企画、経営企画まで幅広い領域を担当し、事業の成長と組織づくりに貢献している。さらに、株式会社Genonの医療チームメンバーとして、オンライン服薬指導の提供とその品質改善にも取り組むとともに、医療・薬学領域のコンテンツ制作において専門的なアドバイスを行っている。経済産業省主催「始動 Next Innovator 2022」採択、Knot Program 2022 最優秀賞を受賞。
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