
50代 男性のご相談
手足症候群ってどんな病気?

医師の回答
手足症候群は、一部の抗がん剤によって手や足の皮膚の細胞が障害されることで起こる副作用の一つです。
〜抗がん剤治療中に手や足の赤み・ヒリヒリが…それは「手足症候群」かも!?〜 手足症候群は、一部の抗がん剤によって手や足の皮膚の細胞が障害されることで起こる副作用の一つです。
抗がん剤の種類により、症状のあらわれ方や時期が異なりますが、しびれ、痛み、赤い発疹[紅斑(こうはん)]、
水ぶくれ、爪の変形などがあらわれます。
症状の程度により抗がん剤の休薬や減量、対症療法として、ステロイド(副腎皮質ホルモン)
外用薬、保湿剤、非ステロイド性抗炎症(NSAIDs)内服薬の投与や冷却などを行います。
手足症候群(てあししょうこうぐん)は、一部の抗がん剤によって手のひらや足の裏などの皮膚に炎症が起こる薬剤による皮膚の副作用のひとつです。医学的には「手足皮膚反応(Hand-Foot Skin Reaction)」とも呼ばれ、がん治療を受けている患者さんに比較的よく見られる皮膚トラブルです。
抗がん剤の種類によって症状のあらわれ方や時期には差がありますが、主に手のひらや足の裏に赤み・ピリピリ感・ヒリヒリ感・しびれ・痛み・水ぶくれ・皮むけ・爪の変形などが現れます。初期には「熱っぽい感じ」や「少し違和感がある」といった軽い症状から始まり、治療を続ける中で徐々に悪化していくケースが多くみられます。
この症候群の発症は、特定の抗がん剤成分が皮膚の末梢血管から漏れ出し、摩擦や圧迫のかかりやすい手足の皮膚細胞にダメージを与えることが原因とされています。特に以下のような抗がん剤で起こりやすいとされています:
カペシタビン(ゼローダ®)
ソラフェニブ(ネクサバール®)
スニチニブ(スーテント®)
フルオロウラシル(5-FU) など
症状としては、手のひらや足の裏の赤み、ひりひり・ぴりぴりとした痛み、皮膚のガサガサ感、角化(かたくなる)、水ぶくれ、皮むけ、亀裂、歩行困難や物をつかむ際の痛みなどがあげられます。ひどくなると、日常生活に支障をきたすこともあります。
発症しやすい方には、抗がん剤を長期間使用している方、手足に摩擦や圧力がかかる生活をしている方(例:家事・手作業・仕事など)、乾燥しやすい肌質の方などが挙げられます。
治療と対策は、何よりも早期対応が大切です。症状が軽いうちに対処すれば、重症化を防ぎながらがん治療を継続できます。治療の基本は、保湿と炎症のコントロールです。尿素やヘパリン類似物質などを含む保湿剤で皮膚の潤いを保ち、乾燥やひび割れを防ぐことが重要です。軽症であれば、ステロイドの外用薬で炎症を抑えることができます。また、痛みが強い場合には鎮痛剤の併用が必要になることもあります。
皮膚症状が進行して日常生活に支障が出るような場合には、主治医の判断で抗がん剤の減量や休薬が検討されることもあります。皮膚科医と主治医が連携しながら、がん治療の継続とQOL(生活の質)を両立できるように調整していきます。
また、日常生活の中でできるスキンケアや予防も非常に重要です。手足を1日2〜3回保湿する、圧力や摩擦のかかりやすい部位(足裏・指先など)を靴下や手袋で保護する、家事や作業時はゴム手袋などを着用する、熱いお湯や強い摩擦を避けてぬるま湯で優しく洗うなどの対策が推奨されます。角質が厚くなる前にこまめなケアを行うことも、悪化防止に効果的です。
✅ 治療に使用されるお薬
◆ ①【外用薬(局所治療)】
保湿剤 ヒルドイド®、プロペト®、尿素軟膏(パスタロン®など) 乾燥予防・バリア機能維持/予防にも使用
ステロイド外用薬 ロコイド®(弱)、リンデロン-VG®(中等度)など 炎症・発赤・痛みの緩和に/早期から使うと悪化防止に有効
角質軟化薬 サリチル酸ワセリン、尿素20%クリームなど 角化肥厚がある場合に使用されることがある
局所麻酔薬含有薬 リドカイン含有クリームなど 強い痛みに応じて一時的に使用されることもある
◆ ②【内服薬(補助的)】
アセトアミノフェン(カロナール®) 痛みや不快感の緩和
抗ヒスタミン薬 かゆみや炎症が強い場合に併用されることも
◆ ③【重症例での対応】
薬剤の減量・休薬・中止(Grade 2〜3の場合)
皮膚科との連携管理
感染・潰瘍がある場合は抗菌薬の投与も検討
🔬 病院で何を調べるの?
- 抗がん剤の使用歴(どの薬・いつから?)
- 手足の左右対称の赤み・腫れ・痛み
- 他の薬や皮ふ疾患の既往歴の有無
- 必要に応じて:真菌検査・皮膚生検・薬剤変更の相談
🔍 手足症候群と間違えやすい類似疾患(鑑別)
接触皮膚炎(かぶれ)
⇒アルコール・洗剤・手袋などによる赤み・かゆみ・水疱 原因に接触歴あり/左右差ありやすい/薬剤使用歴なし
掌蹠膿疱症
⇒手足に膿をもった小水疱が繰り返し出る かゆみ・痛みあり/膿疱→かさぶた/慢性的に続く
乾癬(掌蹠膿疱型)
⇒厚い皮むけ+赤み/関節痛を伴うことも 膿疱や爪の変化/慢性経過/他の部位にも皮疹あり
足白癬(みずむし)/手白癬
⇒指の間にかゆみ・皮むけ・水疱 真菌検査でカビ検出/かゆみ強く、足裏・手掌限定
虫刺され・ダニ咬傷
⇒ピンポイントに赤く腫れる・かゆい・水ぶくれ 左右対称でない/刺された覚えあり/痛み少ない
薬疹(薬による発疹)
⇒全身または局所に赤み・かゆみ/薬剤服用歴あり 発熱や全身症状を伴うことも/抗がん剤以外でも起こる
凍瘡(しもやけ)
⇒冬に手足が赤く腫れかゆい・痛い 寒冷曝露の直後に発症/季節限定/薬剤使用なし
予防のポイント
手足症候群は早期に対策すれば、重症化を防ぎつつ抗がん剤治療を継続できます。
「まだ軽いから…」と思わず、違和感レベルから保湿・保護・皮膚科受診を意識しましょう。
<参考資料>
新潟薬科大学卒業。筑波大学大学院 公衆衛生学学位プログラム修了(修士)
ウエルシア薬局にて在宅医療マネージャーとして従事し、薬剤師教育のほか、医師やケアマネジャーなど多職種との連携支援に注力。在宅医療の現場における実践的な薬学支援体制の構築をリード。2023年より株式会社アスト執行役員に就任。薬剤師業務に加え、管理業務、人材採用、営業企画、経営企画まで幅広い領域を担当し、事業の成長と組織づくりに貢献している。さらに、株式会社Genonの医療チームメンバーとして、オンライン服薬指導の提供とその品質改善にも取り組むとともに、医療・薬学領域のコンテンツ制作において専門的なアドバイスを行っている。経済産業省主催「始動 Next Innovator 2022」採択、Knot Program 2022 最優秀賞を受賞。
ヒフメドの編集チームは、皮膚疾患で悩む方に向けて専門的かつ最新の情報を分かりやすく届けることを目指しています。
アトピーや皮膚感染症といった疾患の基礎知識から、治療・生活管理の実用的なコツ、最新の治療事情まで幅広くカバー。読者が記事を読むことで「すぐに役立てられる」情報提供を心がけています。