
30代 女性のご相談
化膿性汗腺炎ってどんな病気?

医師の回答
化膿性汗腺炎は、毛根を包む組織の「毛包」や「アポクリン汗腺」と呼ばれる汗を分泌する組織が機能障害によって毛包に炎症が生じることで発症します わきの下、鼠径部(そけいぶ)から外陰部、肛門から臀部、大腿部に生じやすいです。

〜何度もできる“しこり・できもの”、それ「ニキビ」ではなく、化膿性汗腺炎かも!?〜
化膿性汗腺炎は、わきや股、臀部などに繰り返しできる痛みを伴うしこりや膿(うみ)が特徴の慢性皮膚疾患です。
毛穴の奥に炎症が起こり、膿瘍や瘻孔を形成することもあり、悪化すると皮膚の変形が残ることもあります。
早期治療と生活習慣の見直しが大切です。
化膿性汗腺炎(かのうせいかんせんえん)は、毛穴の奥にある「毛包」や「アポクリン汗腺」といった汗を分泌する組織に炎症が起こることで発症する、慢性の皮膚疾患です。
毛穴がふさがることで皮膚の奥に炎症が広がり、赤くて硬いしこり(結節)ができ、それが時間の経過とともに柔らかくなり、膿を伴う膿瘍(のうよう)に進行します。膿がたまると痛みが強くなり、やがて破れて膿が排出されることもありますが、自然に治っても再発しやすく、同じ部位に何度も繰り返し出現するのが特徴です。
さらに進行すると、皮膚の下にトンネル状の通路(瘻孔:ろうこう)が形成され、皮膚の変形や硬い瘢痕組織が残る場合もあります。
主に発症しやすい部位は、わきの下、股のつけ根(鼠径部)、外陰部、肛門まわりやおしり、太ももの内側など、皮膚がこすれやすく湿気の多い場所で、男女問わず見られますが、思春期以降の若年〜中年層に多く、特に女性で多い傾向があります。ただし、重症化しやすいのは男性の場合もあり、個人差があります。
化膿性汗腺炎のはっきりとした原因は解明されていませんが、毛穴の閉塞による毛包の異常や、アポクリン汗腺の機能変化、ホルモンの影響、喫煙、肥満、ストレス、遺伝的体質などが関係していると考えられています。発症や悪化のリスク要因として、肥満体型やタイトな服による摩擦、糖尿病などの基礎疾患、睡眠不足や乱れた生活習慣なども指摘されています。日常生活の中で皮膚への刺激が続くことで、炎症が慢性化しやすくなるため、生活習慣の見直しも重要です。
治療法は、症状の重症度や進行状況に応じて変わりますが、基本的には薬物療法と生活改善を組み合わせた総合的なアプローチが必要です。軽度の場合は、抗生物質や抗炎症作用のある塗り薬による治療が中心となりますが、炎症が強かったり、再発を繰り返す場合は、内服の抗菌薬、ホルモン調整薬、あるいは生物学的製剤(抗TNF-α抗体など)の注射による治療が検討されることもあります。すでに膿瘍や瘻孔が形成されている場合には、皮膚切開や外科的な切除が必要になるケースもあります。また、禁煙や減量といった生活習慣の改善が治療の効果を高めるため、医師の指導のもとでのセルフケアも重要です。
この病気は見た目がニキビやおできに似ているため、市販薬や自然治癒で済ませようとする方も多いのですが、進行すると治療が難しくなり、皮膚の変形や慢性の痛みが残ることがあります。わきや股、おしりなどに「しこりが繰り返しできる」「膿がたまって破れる」「同じところが何度も腫れて痛い」といった症状がある方は、化膿性汗腺炎の可能性がありますので、できるだけ早く皮膚科を受診することが大切です。
✅ 化膿性汗腺炎の治療薬
① 【外用薬】※軽症例や初期病変に使用
クリンダマイシン外用 ダラシンTゲル 抗菌・抗炎症作用。HSにおける第一選択の外用薬。1日2回。
② 【内服薬】※炎症が強い場合や再発を繰り返す中等症以上
▶ 抗菌薬(細菌感染+抗炎症目的)
ミノサイクリン ミノマイシン 抗菌+抗炎症作用。第一選択。長期可。
ドキシサイクリン ビブラマイシン ミノサイクリンと同様。副作用はやや少ない傾向。
リファンピシン+クリンダマイシン併用 (処方薬) 中等症~重症例に有効な組み合わせ(海外で定番)。日本では慎重に使用。
セフェム系、マクロライド系 ケフレックス、クラリスなど 感染が強いときに一時的使用
③ 【生物学的製剤】※重症例・瘻孔や硬結を繰り返す例に
アダリムマブ ヒュミラ 2021年、日本でもHSに保険適用承認済。抗TNF-α抗体製剤。自己注射。
🔸 中等症~重症のHSにおいて唯一の生物学的製剤。
🔸 使用には専門医による評価と登録が必要です。
④ 【その他補助療法】
鎮痛薬 ロキソプロフェン、アセトアミノフェンなど 痛みの緩和
漢方薬 十味敗毒湯など 軽症で繰り返すタイプに補助的に使われる
ホルモン療法 抗アンドロゲン薬(スピロノラクトンなど) 女性におけるホルモン関連の重症例で使用されることも(保険外)
✅ 手術的治療(薬ではないが重要)
切開排膿(急性膿瘍時)
瘻孔切除・皮膚切除術(再発部位に対する根治手術)
炭酸ガスレーザー焼灼(専門施設で)
✅ HSの重症度に応じた治療ステップ(Hurley分類)
軽症(Hurley I) クリンダマイシン外用 ± 抗菌薬内服
中等症(Hurley II) 内服抗菌薬(長期)+切開処置/生物学的製剤の検討
重症(Hurley III) 生物学的製剤+手術治療
✅ まとめ:化膿性汗腺炎に使われる薬
外用 クリンダマイシン(ダラシンT)
抗菌内服 ミノサイクリン、ドキシサイクリン、リファンピシン+クリンダマイシン併用
生物学的製剤 アダリムマブ(ヒュミラ)※重症例
補助薬 鎮痛薬、漢方、ホルモン療法(女性例)
🔬 病院で何を調べるの?
✅ 1. 視診・触診(皮膚の状態をみる)
医師が実際に皮膚を見て、**しこり・膿・赤み・瘢痕・トンネル(瘻孔)**の有無を確認します。
痛みの有無、部位、左右差、繰り返し出現しているかなども重要な診断ポイントです。
✅ 2. 病歴の聞き取り(問診)
発症時期、繰り返し具合、膿が出る頻度、家族歴などを聞きます。
喫煙、肥満、生活習慣、月経との関連、糖尿病などの持病の有無も確認します。
✅ 3. 必要に応じて行う検査
膿の培養検査:細菌感染の有無や抗生物質の効き具合(薬剤感受性)を確認
血液検査:炎症の強さや、糖尿病などの全身状態をチェック
エコー検査(超音波):皮膚の下に膿瘍や瘻孔があるかを確認するために使われることもあります
🩺 診断の確定ポイント
典型的なしこり・膿瘍・瘢痕の繰り返し
わき・股・おしりまわりなどの好発部位
慢性化していること(3か月以上続く or 年に2回以上再発)
🩺 間違えやすい病気(鑑別疾患)
ニキビ(尋常性ざ瘡)⇒顔・背中中心/膿んでも単発で小さい 化膿性汗腺炎は体幹以外+くり返すしこり+瘢痕が特徴
おでき(せつ・よう)
⇒毛穴から細菌感染/赤く腫れて膿が出る 単発で終わることが多い/再発しにくい
毛包炎
⇒髭や体毛が濃い部位/かゆみや赤みもある 比較的浅くて軽症/抗菌薬で早期改善することが多い
外陰部の粉瘤
⇒小さなしこりが徐々に大きくなる 自然破裂しない限り膿は出にくい/痛みは少なめ
肛門周囲膿瘍・痔瘻
⇒肛門の近くに激しい痛み・発熱 消化器疾患との関係もあり、肛門科での治療が中心
予防のポイント
清潔・乾燥を保つ
汗をかいたら早めにシャワーや着替えを。通気性の良い衣類を選びましょう。摩擦や圧迫を避ける
きつい下着・衣類、締めつけの強いパンツやベルトは避けて、肌をこすらないようにします。禁煙・減量を心がける
喫煙と肥満は大きなリスク因子。ダイエットや禁煙で症状の悪化を防げます。ストレス・睡眠不足の管理
ホルモンバランスや免疫にも関わるため、生活リズムを整えることが大切です。早期に皮膚科を受診
「できものが繰り返す」「膿がたまる」ときは、早めの相談・治療が予防につながります。
<参考資料>
新潟薬科大学卒業。筑波大学大学院 公衆衛生学学位プログラム修了(修士)
ウエルシア薬局にて在宅医療マネージャーとして従事し、薬剤師教育のほか、医師やケアマネジャーなど多職種との連携支援に注力。在宅医療の現場における実践的な薬学支援体制の構築をリード。2023年より株式会社アスト執行役員に就任。薬剤師業務に加え、管理業務、人材採用、営業企画、経営企画まで幅広い領域を担当し、事業の成長と組織づくりに貢献している。さらに、株式会社Genonの医療チームメンバーとして、オンライン服薬指導の提供とその品質改善にも取り組むとともに、医療・薬学領域のコンテンツ制作において専門的なアドバイスを行っている。経済産業省主催「始動 Next Innovator 2022」採択、Knot Program 2022 最優秀賞を受賞。
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